宇宙の始まり、その確率。

確率論専攻がアクチュアリーを目指す

しっぽ確率の一般化

アクチュアリー数学の教科書には「しっぽ確率」(tail probability)というものが登場します.

しっぽ確率とは,非負確率変数Xに対して,P (X \geq k ) \ (k \geq 0)  のことを言います.これを使うことで,期待値E [ X ] を求めることが出来るんですね.こんなのアクチュアリー試験でしか使ったことありませんが… 

非負確率変数Xに対し,次が成り立つ.

 \displaystyle E [ X ] =\int_0^\infty P(X \geq \lambda) d\lambda

今回は,この一般化のお話です.

さっそく,一般化した主張をみていきます.

命題1

非負確率変数X,Y p \geq 1に対し,次が成り立つ.

 \displaystyle E [ XY^p ] =\int_0^\infty p \lambda^{p-1} E [X,Y \geq \lambda ] d\lambda

さらに,この主張に X=1を代入すれば,期待値E [ X^p ] についての主張も得られます.

命題2

非負確率変数X p \geq 1に対し,次が成り立つ.

 \displaystyle E [ X^p ] =\int_0^\infty p \lambda^{p-1} P(Y \geq \lambda ) d\lambda

この主張を使えば, Xの分散や m次モーメントをしっぽ確率から求めることが出来ますね.冒頭の主張は,この p=1の特殊な場合と言えます.

命題1の証明

 \displaystyle E [ XY^p ] =E \left[ X \int_0^Y p\lambda^{p-1} d\lambda \right] \\ \displaystyle =E \left[ X \int_0^\infty 1_{\{Y \geq \lambda \} } p\lambda^{p-1} d\lambda \right] \\ \displaystyle = \int_0^\infty p \lambda^{p-1} E \left[ X \cdot 1_{\{Y \geq \lambda \} } \right] d\lambda \\ \displaystyle =\int_0^\infty p \lambda^{p-1} E [X,Y \geq \lambda ] \ d\lambda

ただし,1_{A}は指示関数である.3つ目の等号でTonelliの定理を用いた.

Tonelliの定理で必要な完備性は仮定している.

実は,この命題はDoobの不等式を証明する途中に出てきました.谷口説男先生の「確率微分方程式」の演習問題に取り上げられています.

しっぽ確率がDoobの不等式に使われているのは,なんかすごいですね!!