宇宙の始まり、その確率。

確率論専攻がアクチュアリーを目指す

立命館大 出題ミスの解説

立命館大の2月2日の入試で出題ミスがあったようです.確率の問題で気になったので,どういった出題ミスであったか解説します.

といっても,出題ミスの箇所に確率はまったく関係ないです笑

ritsnet.ritsumei.jp

news.yahoo.co.jp

 

該当する問題は次のとおりです.

大問Ⅳ

男子 n 人と女子 (m-n) 人からなる m 人のクラスで,くじ引きで委員を選ぶとする.ただし,クラスの人数 m4 以上とする.

(中略)

(3)毎週 3 人の委員を選ぶとき,k 週目までの委員に選ばれた男子の人数の累計が奇数となる確率を Q_k とする.ただし,異なる週であれば同じ人が何度でも委員に選ばれることができ,例えば,同じ男子が 5 回選ばれるなら 5 人分として数える.このとき,Q_1m,n のみを用いた分数式として,

\displaystyle \frac{n\left\{\fbox{キ}\right\}}{m(m-1)(m-2)}

と表すことができ,Q_{k+1}Q_kQ_1 を用いて,Q_{k+1}=\fbox{ク} と表すことができる.Q_k を用いず Q_1k を用いて表すと,Q_{k+1}=\fbox{ケ} となる.

k の値によらず Q_k の値が一定の正の値になるのであれば,\displaystyle \frac{m}{n} の値は \fbox{コ} である.

このうち,ミスがあるとされたのは \fbox{コ} です.順番に見ていきましょう.

大問Ⅳ(3)解説

1 週目の委員に選ばれた男子の人数が奇数になるのは,「男女女」または「男男男」のいずれかの組み合わせで選ばれたときであるから,

\displaystyle Q_1 = \frac{{}_n\mathrm{C}_1 \cdot {}_{m-n}\mathrm{C}_2 + {}_n\mathrm{C}_3}{{}_m\mathrm{C}_3} \\ = \displaystyle \frac{n \left\{ 3(m-n)(m-n-1)+(n-1)(n-2) \right\} }{m(m-1)(m-2)}

である.Q_{k+1} は,「 k 週目まで男子の人数が奇数で,k+1 週目の男子の人数が偶数」または「 k 週目まで男子の人数が偶数で,k+1 週目の男子の人数が奇数」である事象の確率である.これらは排反であることと,各週の男子の人数は独立であって,奇数になる確率は Q_1 に等しいことから,

Q_{k+1} = Q_k(1-Q_1) + (1- Q_k)Q_1 \\ \displaystyle \Leftrightarrow \left(Q_{k+1} - \frac{1}{2} \right) =(-2Q_1+1)\left(Q_k - \frac{1}{2} \right)

となる.よって,

\displaystyle Q_k =(-2Q_1+1)^{k-1}\left(Q_1 - \frac{1}{2} \right) +\frac{1}{2}

である.

k の値によらず Q_k の値が一定の正の値になるとき,

-2Q_1+1 = 0 \Leftrightarrow \displaystyle Q_1 = \frac{1}{2}

または,

\displaystyle Q_1 - \frac{1}{2} = 0 \Leftrightarrow \displaystyle Q_1 = \frac{1}{2}

を満たす( -2Q_1+1 = 1 のときも Q_k の値は 0 で一定となるが,正の値でないので不適である.)

よって, \displaystyle Q_1 = \frac{1}{2} を満たす m,n の関係式を求めと,

 \displaystyle Q_1 = \frac{1}{2} \\ \Leftrightarrow 8n^3-12mn^2+(6m^2-6m+4)n-(m^3-3m^2+2m)=0 \\ \Leftrightarrow (2n-m)\left\{ 4n^2-4mn+(m^2-3m+2) \right\} = 0 \\ \therefore \displaystyle n=\frac{1}{2} m, \frac{m \pm \sqrt{3m-2}}{2}

となる.

ここまでが,与えられた条件で解ける内容です.大学側は,\displaystyle \frac{m}{n} =\fbox{コ} の値として,  \fbox{コ} = 2 を想定していたのだろうと考えられます.一方で,(m,n) = (6,1) といった組は  \displaystyle n = \frac{m - \sqrt{3m-2}}{2} を満たし,( (m,n) についての条件がない以上,)  \fbox{コ} = 6 といった答も正解にせざるを得ないという判断だと思われます.

 

以上が立命館大の出題ミスの解説でした.(1),(2)も解いてみましたが,確率だけでなく整数の性質も気にしなければならない良い問題だったのが残念ですね.

東工大数学系 2021年度院試解説(午前の部)

昨年受験した東工大数学系の院試の問題が公開されました.

 私が当日実際に解いたときの参考とともに,解答を残したいと思います.以前のブログで,受験直後の感想を書いています.

mathactuary.hatenablog.com

※以下の内容の正確性は保証しません. 

総括

例年では

  • 午前 必答5問 150分
  • 午後 選択2問 120分

でしたが,今回はオンライン(zoom)で

  • 午前 必答390(1問30分で区切って3回)
  • 午後 選択2問 90

となりました.特に午後は1問あたりの時間が減り少し困りました.

午前は例年通り線形代数・位相・解析の問題が出題されました.難易度は例年より下がっています.

大問1

線形代数の問題です.書く量が多くて時間ギリギリでした.難しくはありません.

(1)

まず,e^x, xe^x, e^{2x}V 上で一次独立である.これは認めてもいいと思うが,ae^x+bxe^x+ce^{2x}=0 とおいて x に適当な値 x=0,1,2 を代入すれば,a,b,c=0 がわかる.次に f(x)=ae^x+bxe^x+ce^{2x} とおく.これより,(D_0f)(x),(D_1f)(x),(D_2f)(x) を具体的に書くことが出来る.そこで p(D_0f)(x)+q(D_1f)(x)+r(D_2f)(x)=0 とおくと,e^x, xe^x, e^{2x} についての式が得られるが,これらは一次独立なので e^x, xe^x, e^{2x} の係数は 0 になる.これより p,q,r=0 が得られるので,D_0,D_1,D_2 は一次独立である.

(2)

引き続き f(x)=ae^x+bxe^x+ce^{2x} とする.これより (D_3f)(x) を具体的に書くことが出来る.ここで p(D_0f)(x)+q(D_1f)(x)+r(D_2f)(x)=(D_3f)(x) とおくと,(1)と同様に計算して

p=2, q=-5, r=4

を得る.これより D_n (n \geq 3) は D_0,D_1,D_2 の線形結合で書けるので,(1)の結果も合わせて次元は 3 である.

(3)

引き続き f(x)=ae^x+bxe^x+ce^{2x} とする.すると,

(D_nf)(x)=(a+nb)e^x+bxe^x+2^nce^{2x}

となる(これは数学的帰納法で簡単にわかる). これを与えられた方程式に代入して,

\displaystyle a=\frac{1}{2}-\frac{1}{4} n, b=\frac{1}{2}, c=\frac{1}{2^n+1}

を得るので,

\displaystyle f(x)=\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{4} n \right) e^x+ \frac{1}{2} xe^x+ \frac{1}{2^n+1} e^{2x}

となる.

大問2

コンパクト性と有限交差性に関する命題です.調べたらすぐに出てくるので,(2)(3)は割愛します.

(1)

\{[n, \infty)\}_{n \in \mathbb{N}}\mathbb{R}閉集合であり,(*)を満たす.

大問3

形から見るに,x=r\cos\theta, y=r \sin\theta とおけば良さそうです.

(1)

a=b=1 とすると,r \gt 0 のとき

f(x,y)=\sin\theta\cos\theta

であり,例えば \displaystyle \theta=\frac{1}{4}\pi にとって r \to 0 とすると,\displaystyle f(x,y) \to \frac{1}{2} なので連続でない.

(2)

a=b=2 とすると,r \to 0 のとき

\displaystyle \frac{f(x,y)}{\sqrt{x^2+y^2}}=r\sin^2\theta\cos^2\theta \to 0

である.よって,

f(x,y) = f(0,0)+0 \cdot x+0 \cdot y+f(x,y)

と書けるので,全微分可能である.

(3)

a=2, b=1 とすると,r \gt 0 のとき

f(x,y)=r\sin\theta\cos^2\theta

であり,r \to 0 のとき f(x,y) \to 0 であるので連続である.また,

\displaystyle f_x(0,0) = \lim_{h \to 0} \frac{f(h,0)-f(0,0)}{h-0} =\lim_{h \to 0} \frac{0-0}{h-0} = 0

である.同様に f_y(0,0) = 0 となる.ここで全微分可能であると仮定し,

g(x,y) := f(x,y) - f(0,0) - 0 \cdot x - 0 \cdot y = f(x,y)

 とおけば,全微分可能であることより,\displaystyle \lim_{(x,y) \to (0,0)} \frac{f(x,y)}{\sqrt{x^2+y^2}} = 0となる.しかし,これは(1)と同様の理由で矛盾することがわかる.よって全微分可能ではない.

2021年の抱負

皆様,あけましておめでとうございます.昨年は良いことも悪いこともたくさんありましたが,今年はより良い年になりますよう願っております.

 

来年の抱負は…といきたいところですが,まずは昨年の振り返りをしましょうか.自分の記録がてらに.

 

私は昨年に大学4年生となり,研究室に所属して確率論を勉強し始めました.マルチンゲール理論,確率積分,確率微分方程式についての基礎を学び,1年間でそれなりの知識が身についたはずです.今後はその応用や統計の勉強をしていきたいですね.

 

コロナが世界に与えた影響はとても大きく,数学科の学生も例外ではありません.そのことについて書いた以下のブログはそれなりに反響をいただき,様々な反応がありました.

実を言うと私は未だに大学へ行けておりません.他の実験系の学生は(卒論がありますから)大学へ通っているのですが,数学科はずっとzoomです.オンラインでの発表やMTGも今では慣れてしまいましたが,指導教員と直接会えないまま1年が過ぎてしまいそうです.このまま卒業を迎えれば,4月から他大学院へ行くので,先生とは研究室所属後に一度も会うことなく終わってしまいそうですね.

mathactuary.hatenablog.com

 

そして夏になり院試に向けた勉強をはじめました.こちらもブログに書いたとおり,オンラインで東工大・東大の試験を受けて,無事合格できました.あの試験はもう二度と経験したくありません(笑).そのくらい過酷な試験でした.

mathactuary.hatenablog.com

mathactuary.hatenablog.com

 

院試が終わったら,アクチュアリー試験の勉強!!と意気込んでいたのですが…実は昨年,アクチュアリー試験は欠席いたしました.生保と年金の申込みをしていましたが,あまりにも時間が取れずに見送ってしまいました.今年は今年で就活があって忙しそうですがね…次こそちゃんと勉強して合格したいですね.

 

でもアク試を受けなかった代わりに,念願のプログラミングを勉強することが出来ました.幸運にも勉強する機会をいただいて,Pythonで簡単なデータ分析が出来るくらいにはなりました.今後の研究や就活に活かせるくらいには習得したいですね.

 

以上,昨年の振り返りでした.それを踏まえて2021年の抱負は…

  • 確率論・統計学の知識をより深める!!
  • 保険・金融系のインターンに行く!!
  • プログラミングをそれなりに習得する!!
  • 生保・年金の勉強をする!!(そして合格する!!)
  • (ブログをそこそこ更新する(笑))

だいぶ欲張りな気もしますが,問題はないでしょう.幸いにも家にいる時間はたっぷりあります.

 

今後もいろんな記事を書いていければと思います.よかったら今後も読んでくださいね.

 

 

 

東大数理科学に合格しました

本日,東大数理科学の合格発表があり無事に合格いたしました.死ぬほど辛い筆記B・口頭試問でしたが,努力が実ったようで嬉しいです.

なぜ東大を受験したかといえば,

  • 確率統計を学びたいから
  • 修士以降の可能性の幅を広げたいから

が主な理由です.加えて,コロナで試験方式が変わったのも理由の1つだったりします.(自宅でリラックスしながら問題を解ける,英語試験がなくなる,教科書ノートを参照できる(これはもちろん認められています),など…)

正直なところ,例年通りの試験方式であったら結果は変わっていたと思います.

 

院試対策について,私は過去問をひたすら解きました.以下の通り,ほぼ15年分です.

  • 東工大 午前 H14-R2
  • 東工大 午後 H17-R2
  • 東大 筆記A H16-R2
  • 東大 筆記B H20-R2

東工大午前は簡単な問題が多く,線形代数微積分・位相空間論の基礎の見直しになりました.一方で東大筆記Aは基礎的ではありますが捻った問題が多く,ちゃんと考える力が付きました.東大筆記Aの線形代数を全て解ければ,ジョルダン分解や最小多項式,線形写像の知識はほぼ完璧になります.

東工大午後は選択2問,東大筆記Bは選択3問です.幸いにも解析系の問題は代数・幾何系の問題より多い気がしますので,自分の得意分野で点を取りやすいというメリットがあります.私は東工大では測度論・関数解析複素関数論を,東大では測度論・関数解析・確率論を選択してました.

(東大の複素解析は解析接続が出てくるので手がつけられませんでした.代わりに確率論専攻として確率論を取るわけです.)

東工大午後と東大筆記Bのレベルの差はそれほど大きくないような気がします(もちろん問題によりますが…).レベルの差より,分量の差の方が私は気になりました.なんせ東大筆記Bは4時間ですからね…めちゃ重い大問3つを4時間で処理する集中力が大事です. 

 

何よりも,過去問をひたすら解いて傾向を掴むのが一番だと思います.特に外部受験はシラバスの乖離で苦労するはずです(解析接続・作用素論・微分方程式変分法・数値解析など,東大の過去問には出てきますが私は手を付けられません.うまく大問3つを選んでました).

 

以上,偉そうに書きましたが,来年以降に院試を控えている数学徒の皆様の参考になれば幸いです.私はもう院試なんてやりたくありません笑笑

東大院数理科学の受験が終わりました

やっと平穏の日々が訪れました.

 

ここ数日間で,東大数理科学の筆記試験Bと口頭試問を受けました.詳しくは語れませんので,差し障りのない範囲で書きます.

 

筆記Bの成績は正直あまり良くありませんでした.今年の解析系の問題は比較的簡単だったのですが…特に例年難度が高い確率論の問題は,基本的なことしか問われませんでした.オンライン化が難度に影響しているかはよくわかりません.

筆記の問題については,公式が公開したら書こうと思います(多分来年の6月とかですかね…?笑).

 

口頭試問は地獄のようでした.「東大 数理科学 口頭試問」と検索すると一番上に出てくる有名なブログがありますので,よく知らない方はそれを読んでみてください.改めて東大のレベルの高さを感じました.

 

院試が終わったので,次はアクチュアリー試験ですね!! 9月1日から申し込みが始まりましたが,皆さんはもう済ませましたか?

私は生保+年金を申し込みました.本当は残りのKKTも申し込みたかったのですが,思ったより院試勉強に時間を取られてしまい,今から3科目対策するのは諦めました(本当は東大受験するつもりありませんでしたので…).

 

今後は,アクチュアリーと確率論の記事をちょっとずつ書いていきたいですね!! 院試勉強を優先して結局月1回更新くらいでしたので!!

東工大・東大の院試を受験している話

忙しい3日間がやっと終わりました.

というのも,私は東工大数学系と東大数理科学研究科の院試を受けておりました.今年は(たまたま?笑)3日連続で試験となり,その対策に追われていました.

  • 8月18日 東工大 筆記
  • 8月19日  東工大 面接
  • 8月20日 東大 筆記1
  • 8月31日 東大 筆記2
  • 9月1-4日 東大 面接

今年は東工大も東大もオンライン試験になり,受験者も試験官も初めてのことにあたふたしたようです.本当はその辺を詳しく書きたいのですが,東工大にも東大にも「情報は外に流さないように」と厳しく注意されていますので,そこは控えます.

www.itmedia.co.jp

ちなみにTwitterでちょっと話題に(?)なりましたが,東大の筆記試験中にGoogleフォーム・ドライブ・Gmailで障害が発生して,解答をアップロード出来ない問題もありました.この辺も深くは話しません.

 

3日間の感想ですが,正直辛かったです.オンライン試験だと家でリラックスしながら問題を解けました.ですが,答案をオンラインで提出出来たかどうかが非常に不安になります.もし提出出来ていなかったら失格ですから…

 

問題自体は,東工大も東大も試験時間をフルに使うような問題が多かったです.また,調べてすぐわかるような証明問題は少なく,難しい計算問題が多かった気もします.これらはおそらく不正対策でしょう.

問題についての詳細な感想は,公式で公開されたあとに書きたいと思います.その時はぜひ読んでください.

 

東工大の受験は終わりましたが,東大の受験はまだ続きます.確率論の勉強を再開できるのは,しばらく先になりそうですね…

 

コロナが変えた『数学科』

新学期が始まってから はや2ヶ月半,私達はいまコロナと共に生きる方法を身に着けつつあるのではないでしょうか.

私は今年からゼミに所属し,確率論を学び始めました.しかしコロナが大学に及ぼした影響は非常に大きく,『数学科』の今までの環境も変えてしまいました.

今回はその環境の変化について,内部から詳しく述べたいと思います.

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