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東工大数学系 2021年度院試解説(午前の部)

昨年受験した東工大数学系の院試の問題が公開されました.

 私が当日実際に解いたときの参考とともに,解答を残したいと思います.以前のブログで,受験直後の感想を書いています.

mathactuary.hatenablog.com

※以下の内容の正確性は保証しません. 

総括

例年では

  • 午前 必答5問 150分
  • 午後 選択2問 120分

でしたが,今回はオンライン(zoom)で

  • 午前 必答390(1問30分で区切って3回)
  • 午後 選択2問 90

となりました.特に午後は1問あたりの時間が減り少し困りました.

午前は例年通り線形代数・位相・解析の問題が出題されました.難易度は例年より下がっています.

大問1

線形代数の問題です.書く量が多くて時間ギリギリでした.難しくはありません.

(1)

まず,e^x, xe^x, e^{2x}V 上で一次独立である.これは認めてもいいと思うが,ae^x+bxe^x+ce^{2x}=0 とおいて x に適当な値 x=0,1,2 を代入すれば,a,b,c=0 がわかる.次に f(x)=ae^x+bxe^x+ce^{2x} とおく.これより,(D_0f)(x),(D_1f)(x),(D_2f)(x) を具体的に書くことが出来る.そこで p(D_0f)(x)+q(D_1f)(x)+r(D_2f)(x)=0 とおくと,e^x, xe^x, e^{2x} についての式が得られるが,これらは一次独立なので e^x, xe^x, e^{2x} の係数は 0 になる.これより p,q,r=0 が得られるので,D_0,D_1,D_2 は一次独立である.

(2)

引き続き f(x)=ae^x+bxe^x+ce^{2x} とする.これより (D_3f)(x) を具体的に書くことが出来る.ここで p(D_0f)(x)+q(D_1f)(x)+r(D_2f)(x)=(D_3f)(x) とおくと,(1)と同様に計算して

p=2, q=-5, r=4

を得る.これより D_n (n \geq 3) は D_0,D_1,D_2 の線形結合で書けるので,(1)の結果も合わせて次元は 3 である.

(3)

引き続き f(x)=ae^x+bxe^x+ce^{2x} とする.すると,

(D_nf)(x)=(a+nb)e^x+bxe^x+2^nce^{2x}

となる(これは数学的帰納法で簡単にわかる). これを与えられた方程式に代入して,

\displaystyle a=\frac{1}{2}-\frac{1}{4} n, b=\frac{1}{2}, c=\frac{1}{2^n+1}

を得るので,

\displaystyle f(x)=\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{4} n \right) e^x+ \frac{1}{2} xe^x+ \frac{1}{2^n+1} e^{2x}

となる.

大問2

コンパクト性と有限交差性に関する命題です.調べたらすぐに出てくるので,(2)(3)は割愛します.

(1)

\{[n, \infty)\}_{n \in \mathbb{N}}\mathbb{R}閉集合であり,(*)を満たす.

大問3

形から見るに,x=r\cos\theta, y=r \sin\theta とおけば良さそうです.

(1)

a=b=1 とすると,r \gt 0 のとき

f(x,y)=\sin\theta\cos\theta

であり,例えば \displaystyle \theta=\frac{1}{4}\pi にとって r \to 0 とすると,\displaystyle f(x,y) \to \frac{1}{2} なので連続でない.

(2)

a=b=2 とすると,r \to 0 のとき

\displaystyle \frac{f(x,y)}{\sqrt{x^2+y^2}}=r\sin^2\theta\cos^2\theta \to 0

である.よって,

f(x,y) = f(0,0)+0 \cdot x+0 \cdot y+f(x,y)

と書けるので,全微分可能である.

(3)

a=2, b=1 とすると,r \gt 0 のとき

f(x,y)=r\sin\theta\cos^2\theta

であり,r \to 0 のとき f(x,y) \to 0 であるので連続である.また,

\displaystyle f_x(0,0) = \lim_{h \to 0} \frac{f(h,0)-f(0,0)}{h-0} =\lim_{h \to 0} \frac{0-0}{h-0} = 0

である.同様に f_y(0,0) = 0 となる.ここで全微分可能であると仮定し,

g(x,y) := f(x,y) - f(0,0) - 0 \cdot x - 0 \cdot y = f(x,y)

 とおけば,全微分可能であることより,\displaystyle \lim_{(x,y) \to (0,0)} \frac{f(x,y)}{\sqrt{x^2+y^2}} = 0となる.しかし,これは(1)と同様の理由で矛盾することがわかる.よって全微分可能ではない.