宇宙の始まり、その確率。

確率論専攻がアクチュアリーを目指す

コロナが変えた『数学科』

新学期が始まってから はや2ヶ月半,私達はいまコロナと共に生きる方法を身に着けつつあるのではないでしょうか.

私は今年からゼミに所属し,確率論を学び始めました.しかしコロナが大学に及ぼした影響は非常に大きく,『数学科』の今までの環境も変えてしまいました.

今回はその環境の変化について,内部から詳しく述べたいと思います.

2020年6月30日 追記

東大数理科学の院試について新たな情報が得られたので追記しました.

『私の結論』

数学科はコロナの影響が少ない学科の1つであることは間違いないが,数学科のオンライン化はあまり良い影響を生まないだろう.

以下,詳しく述べたいと思います.

ゼミ

数学科のゼミは1週間に2,3時間程度というのが一般的かと思います.他の理系学科に比べると恐ろしく少ないですが,数学のゼミというのは準備に何より時間がかかります.次のゼミの準備のために1週間勉強し続けるというのはよくある話なのです.

よくあるゼミの進め方は,みんなで1冊の本を読み合いお互いに解説し合う『輪講』というものです.これは黒板に数式を書きながら授業のように進めますので,黒板に不慣れな学生はものすごく手間取ります.1冊の数学書(例えば200ページ程度)を1年かけても終わらせられないなんてごく普通です.そういうことなので,1週間に2,3時間のゼミというのは適切なペースではあると思います.

しかしながら今年はZoom上でゼミを行うことになりました.他のゼミの進め方は存じないのですが,うちは既に用意した自分のノートを画面共有して,それをみんなで見ながら説明するというスタイルでやっております.すなわち,黒板のようにその場で書くわけではないので,(数学科にしては)異常なペースで進むことは想像に難くないでしょう.実際のところ,うちのゼミは例年の2倍のペースで進んでしまっています.

数学書を読むペースというのは余り気にしないほうが良いのですが,これほどにも速いと理解や復習が追いついていきません.しかも進むのが2倍ですから,準備する量も2倍になってしまいます.したがって,理論の細かい議論に気づかないまま進んでしまっている可能性もあります.これは数学科の学生としては致命的です.

さらに,数学科の学生が登校できるのは夏休み後(10月)になると言われています.どうやら,実験がある他の理系ゼミや1,2年生の登校が優先されるようです.それは仕方のない話ですが,ゼミに所属してから未だに一度も先生・同期と直接会っていないのは,なんだかやりにくい気もします.

授業

もちろん数学の授業もすべてZoomで行われることになりました.数学科には実験はありませんので,すべてZoom上で済むのは良い点かもしれませんね.実験の授業がある他学科の学生は夏休み中に行われることになり,本当に大変そうです.

しかしながら,大体の数学の授業は本来なら黒板を使って行われます.他学科のようにプロジェクターやプリントは使われないんですね.というのも,数学を学ぶには手を動かすのが一番だからです(先生も講義内容は頭に入っているので資料を作るのがめんどくさいというのもあります笑).しかし今回のコロナ騒動で数学科の先生方は電子資料を作ることになり,本当に大変そうです.また,今年の新入生は手を動かさずにZoomを眺めるだけになり,ある意味かわいそうではあります.

さらに,授業の評価はほとんどレポートで行われることになりました.これの是非は多くあるかと思いますが,どうやら新入生はレポート・課題の多さに疲弊している模様です.4年生の私は受講している講義も少なくあまり課題には追われていないのですが,新入生にとっては地獄の新学期となったことでしょう.

大学設備

(数学科に関わらず)4年生・大学院生にとって 大学図書館が使えなくなったのは大きな痛手です.見かねた大学側は,必要な場合のみ入館を認めるようにはなりました.しかし私にとって『なんとなく本棚の前を歩いて,気になる本をパラパラ読んで見る』という大事な出会いの機会が失われてしまったのは非常に残念です.

数学科の学生にとって,研究室の部屋というのは(他学科ほど)必須ではないと思います.しかも私は4年生になってから一度も研究室に行けていないので,そもそも研究室の部屋の必要性がわからないというのもあります.ですが,修論・博論が控えている先輩の中には,院生室を開放してほしいという意見もあるようです.

院試

多くの大学がいま頭を悩ましているのが院試についてでしょうか.主要大学は以下のように発表しています(2020年6月26日現在).

東京大学 数理科学研究科(2020年6月30日 追記)

例年通り行われるかと思っていましたが,つい先日(6月22日),オンラインで試験を行うことが発表されました.提出書類にレポートが追加され,オンラインにて,筆記1・筆記2・面接の合計3日の日程になったようです.英語の筆記試験は行われず,レポートの英語要旨だけで判断されるのでしょうか.今後の情報を待っています.

先日の情報通り,レポートを事前に提出して,筆記1・筆記2・面接の3回のオンライン試験を行うようです.レポートは3通提出することになりました.

(a) 読んだ数学・数理科学書のリスト

(b) 興味のある定理についてのレポート2-5枚(日本語or英語)

(c) (b)の英語要旨300語以内

このレポートが英語の試験の代わりになったようです.数学の試験時間は例年通りのようですね.試験問題をダウンロードして,解答用紙をスキャンしたものを提出するみたいです.詳しくは公式の情報を御覧ください.

京都大学 数学教室

比較的早くから院試をオンラインで行うことを発表していました.筆記試験は行われず,提出されたレポートと成績,オンライン面接のみで判断されるみたいです.まだあまり情報はありませんね.

東京工業大学 数学系

特に特別なアナウンスはなく,例年通りの筆記試験・面接が行われるみたいです.東大がオンライン化したことで何らかの動きを見せる可能性はありますが…

 ・大阪大学 数学科

東工大同様,まだ特にアナウンスはありませんね.

私は今年院試を受けるので,これに関しては最重要トピックであります.しかしながら,レポートを書くにしても大学図書館は十分に使えず,面接では何を聞かれるかわかないと,不安でなりません.準備を重ねるばかりです.

 

以上,コロナの影響について私が思うことを書いてみました.最初に書いたように,『数学科はコロナの影響が少ない学科の1つであることは間違いないが,数学科のオンライン化はあまり良い影響を生まない』というのが私の結論です.やはり数学科は,対面で先生や同期に質問をぶつけるに限ります.古臭いようにも思えるかもしれませんが,それが数学の一番効率のよい勉強法であることは確かです.そういった環境がオンライン化で失われてしまったことは残念に思うばかりです.

しかしながら,実験の授業がなく大学設備も必須ではないという意味で,数学科は登校の優先順位がかなり低くなってしまっています.他の学生のために我慢するしかないですが,早く先生や同期と議論し合える環境に戻ることを祈るばかりです.